第7回知的財産翻訳検定<第3回英文和訳>試験 標準解答と講評

標準解答および講評の掲載にあたって

 当然のことながら英文和訳の試験では「正解」が幾通りもあり得ます。
 また、採点者の好みによって評価が変わるようなことは厳に避けるべきです。このような観点から、採点は、主に、「これは誰が見てもまずい」という点についてその深刻度に応じて重み付けをした減点を行う方式で行っています。また、選択課題の各ジャンルについてそれぞれ2名の採点者(氏名公表を差し控えます)が採点にあたり、両者の評価が著しく異なる場合は必要により第3者が加わって意見をすりあわせることにより、できるだけ公正な評価を行うことを心がけました。
 ここに掲載する「標準解答」は作問にあたった試験委員が中心になって作成したものです。模範解答という意味ではなく、あくまでも参考用に提示するものです。また、「講評」は、実際に採点評価にあたられた採点委員の方々のご指摘をもとに作成したものです。 今回の検定試験は、このように多くの先生方のご理解とご支援のもとに実施されました。この場をお借りして御礼申し上げます。
 ご意見などございましたら次回検定試験実施の際の参考とさせていただきますので、「標準解答に対する意見」という表題で事務局宛にemail(office@nipta.org)でお寄せください。


第7回知的財産翻訳検定試験結果公表にあたって

お詫びと解説 ------------------------------------------------日本知的財産翻訳協会


1級機械工学分野試験において、課題文の参考として添付された図面の一部が適切に表示されず、限られた時間で解答作成を求められる受験者の方々には多大のご迷惑をおかけいたしました。結果公表にあたりあらためてお詫びいたしますとともに、今後かかる事態が生じることのないように、関係者一同入念に事前チェックを行うよう注意いたします。


また、1級機械工学、電気電子工学、化学の各分野出題中、請求項の和訳に関して、いわゆる「おいて」書きの是非について試験委員会で議論がなされました。「和訳実務においてはいわゆる『おいて書き』をさけるべきである」とする実務が拡がりつつあることに配意したためです。背景には特許庁から出された「先行技術文献情報開示要件」に関連する解説書面において、次のような記載があるためです。


「例えば、特許を受けようとする発明の直接の前提となる文献公知発明(請求項が「….において、…を特徴とする..」という形式で記載されている場合の「…において」の部分に相当する文献公知発明等)は一般に、特許を受けようとする発明と同一の技術分野に属し、共通の発明特定事項を有することから、通常、特許を受けよとする発明に関連すると考えられる」


弁理士を混じえた試験委員会では、「『おいて書き』を使用しないというスタンスが大事であり今後優勢になる可能性が高いとしても、現状では『おいて書き』を使用することにより権利範囲の解釈が著しく変わるという状況が一般に認識されておらず、解答文における『おいて書き』を減点対象とすることは現時点では適切ではない」という判断をいたしました。


1級/知財法務実務


第7回 知的財産翻訳検定 1級/知財法務実務 講評

【出題の意図】
 今回から英和翻訳についても知財法務実務部門として独立した科目となりました。法務実務の観点からは、文書を逐次翻訳するだけでなく、例えば外国特許庁が発した指令書などの内容を、要領よく的確に伝達するための、文書を要約する能力が求められる場面も多くあります。そこで、今回の出題では、1問を英文要約の設問とする試みをいたしました。以下、各問についての所感を述べます。

【問1 要約問題】
 特許出願後の手続補正に関する内容です。最初の拒絶理由に対する応答時の補正制限(新規事項加入禁止)、応答した後の審査での取り扱い、2回目の拒絶理由応答時の対応、といった点が盛り込まれていれば、本問の趣旨に合う合格答案であると判定しました。
 読み手として外国特許出願人を想定した場合、最初の拒絶理由、及び2回目の拒絶理由が最後の拒絶理由であるか否かによる補正制限の相違については、有益な情報として含めることが必要であると思います。
 なお、原文の訳出段階での読み違いがそのまま要約にも反映されている例が散見されましたが、短い要約の場合、訳出の誤りがあっても文脈などから正解することは難しいと思われますので、より慎重な訳出が求められると思います。
 本問に類する補正関係の抄訳作成は、実務上外国特許庁から受けた拒絶理由を出願人に連絡するときなどに頻繁に行われます。特に外国手続になれていない方などに連絡する場合、指令通知の逐語訳では役に立たないことが多いと思います。内容を正確に、平易な言葉で表現する技術が求められます。


【問2 翻訳問題】
 米国特許法上での二重特許の取り扱い(二重特許の禁止)に関する出題です。引用条文から米国特許法に関する記述であることは明らかなので、原文に明記はありませんが、訳文にも「米国特許法」と記載するのが親切かと思います。(減点の対象とはしていません)
 "entity"は訳出しづらい単語ですが、本問では「発明者」又は「発明主体」でよいと思います。
 "claim"の語を動詞として使用している場合、文脈にもよりますが、「クレームする」とシンプルに訳した方がよいことが多いようです。
 本問にも登場した米国特許法第102条(新規性等)は、米国が先願主義に移行するに際してシンプルに修正されると言われておりましたが、目下特許法改正自体、棚上げ状態となっているようです。本問の標準解答などをご参考にされ、複雑な構成となっている現行102条の条文を見直しておかれるとよいと思います。 以上



問題(知財法務実務)PDF形式66KB   標準解答(知財法務実務)PDF形式41KB





1級/電気・電子工学

第7回NIPTA翻訳検定 1級/電気・電子工学 講評


 和英翻訳としては第5回目となりますが、他の技術分野(機械工学および化学)と同様に、今回も前回同様に三つの課題で試験問題を構成しました。まず、第一課題には、携帯電話などに使用される無線通信方式の一つであるCDMA(code division multiple access:符号分割多重接続)に関する発明についての独立クレームを選びました。第二課題は、浮動小数点の計算と正規化とを同時に処理する計算回路に関する発明の背景技術記載からの出題です。そして、第三課題は、GPS(global positioning system)を使用して大型アンテナの位置を制御する発明の実施例記載からの出題です。

 今回の問題は皆さん果敢にチャレンジしていただきましたが三課題いずれも少し難しかったようです。結果として、残念ながら今一歩のところで1級合格者が出ませんでした。

 さて、課題1を振り返ってみると、まず、独立クレームとしての形式については皆さん大体マスターしているようです。次に、この課題は構成要素を複数で表現しているので複数の処理が必要です。ただ、”a plurality of N --- circuits”などで「複数の」と「N個」とが重なってしまうため考えすぎてしまった人もいるようです。単に「N個の・・・回路」でよいでしょう。用語として”seed”と”slewer”については、複数の周波数を発生させるための複数のシーケンスを作り出す回路において使用される源(種)データとその源(種)データを変更する変更器と理解できる範囲の訳であればOKです。両方とも訳さずにカタカナを置いただけという人もいましたがこれは減点対象としました。

 次に、課題2では、浮動小数点の計算と正規化とを順次実行すると時間がかかる、という技術上の問題点を述べていますが、文末の”performed sequentially”は「順次実行される」であって「連続して実行される」としては意味が若干異なってしまうので注意すべきでしょう。第一パラグラフ中の”require two separate passes”について、「二つのパスを要求する」と訳す受験生が多かったのですが、「二回別々に通す必要がある」とするのが適訳です。

 課題3は、数式などがあり時間的制約からコピーペーストして処理する人が多かったようです。その結果、”θ=10”の前の”and”が不用意にそのまま訳文中に残ったりするケアレスミスも見受けられました。第二パラグラフ中の”if the uncertainty, or error ---- is θ”においては”the uncertainty”と”error”は同格であり、その訳としては、「不確定要素、即ち、変換機103から通知される方位角の誤差をθとすると」です。もう一箇所、最後のパラグラフ中ごろ、”--- in such a scenario: Given ---“という文については、”such”がどの内容にかかるか、”Given”がどのような役割かについて多くの受験生が悩んだようです。”such”はその前に記載された従来の技術の内容にかかっています。そして、”Given”は「したがい」などの接続的な意味合いを持ちます。

 今回、電気電子工学分野では1級合格者は残念ながらいませんでしたが、受験者の皆さんの多くがもう一歩及ばずというところでしたので大変残念に思っています。是非とも更なる研鑽を詰まれて再度挑戦していただきたいと期待しています。

問題(電気・電子工学)PDF形式100KB  標準解答(電気・電子工学)PDF形式98KB



1級/機 械


第7回 知的財産翻訳検定 1級/機械工学 講評


 今回の機械分野1級の試験の受験者の方々は、いずれも特許翻訳に関する十分な知識と高い翻訳レベルを備えておられ、限られた時間の中で健闘されていたと思います。大きな誤訳ではなく、小さな誤訳および訳抜けがトータルされた結果、合格ラインに今一歩及ばずというケースが多く見られました。小さな単語も大切にしていく週間を今後の課題にしていただければ、なお一層、翻訳力が向上されると思います。

 問1は、fastner(締結具)に関する明細書からの出題でした。構造について言及されている明細書では、その構造を図面または本文からイメージして把握する必要があります。これにより複数の意味を持つ単語の誤訳を避けることができます。例えば、extend(自動詞)という単語は「延びる」「伸びる」「広がる」といった意味が辞書に記載されていますが、図面を参考にし、また、extend from *** over 〜といった環境で使われていることに気付けば、「〜にわたって***から延びている」といった状態が推察できたかと思います。また、generallyは「全般的に、全体として、一般に、総じて、略(ほぼ)」と訳される単語ですが、「generally+形状」の組合せで出てきたときは「略(ほぼ)」という意味で使われることが多いので覚えておくと便利でしょう。また、副詞、前置詞など、何気なく通り過ぎてしまうような単語に対しても注意を向ける必要があります。


 問2、問3においては、比較的簡単な構造が対象のため、技術を完全に勘違いしたり理解できていないように受け取れる方はほとんどいませんでした。ただ、細かい減点の積み重ねで合格点に至らない方が多く、結果的には合格された方と不合格になってしまった方との差は歴然としていました。だからといって合格された方の翻訳が完璧であったかというとそうではなく、今回は満点合格者は一人もいませんでした。
 問2、問3で特に目立ったのが、訳しづらい単語をとりあえずカタカナで表記される方でした。「ねじ」と「スクリュー」など、場合によってはそれでも特に問題がないものもありますが、今回は例えばtroughを「トラフ」と訳された方は減点になっています。理由は、和文の「トラフ」は英文と図面に記されている構造を表現するには適切な用語でないからです(標準解答例では「凹形状部位」としました)。また、cumbersomeの誤訳も目立ちました。「扱いにくい」を辞書で見つけて充てられた方が多い様でしたが、この文が言いたいことは扱い易さより、過度に大掛かりになってしまっている構造のことです。個々の単語を訳すのにも、常に全体の構造や仕組み等を念頭に入れる必要があります。
 明細書の原文を執筆される方は必ずしも言葉のプロではなく、原文において不適切な表現が含まれていることも多々あります。厳密な直訳を求められた場合以外は、翻訳者は常に「質において原文を超える訳文」を目指すべきものと考えます。

問題(機械工学)PDF形式208KB   標準解答(機械工学)PDF形式88KB



1級/化 学

第7回 知的財産翻訳検定 1級/化 学  講評

化学部門の採点を通じて感じることは、解答者の技術内容の理解力がそのまま翻訳の結果に現れるということである。これは、別に化学部門に特有の問題ではなく、全分野に共通していると思われることだが、解答者は改めてこのことを良く認識してほしい。英語の基礎力があり、技術内容が良く理解できている場合は、致命的なミスは起こりえないが、良く理解できていない場合は致命的なミスに繋がる確率は非常に高いからである。試験という特殊な環境で、限られた時間内に与えられた問題を翻訳するには、ポイントをしっかり押さえることが重要である。
問題1はクレーム翻訳である。この問題自体は決して難しくなく、要素を正確に把握すればほとんど誤訳は起こらない。にもかかわらず、要素の把握を間違えた解答の方が多いのは非常に残念である。先ほど述べた技術内容の理解もさることながら、クレームの構造をきちんと読み取る基礎的な文法をマスターする必要がある。
問題2は植物中のテルペノイド合成回路に関する従来技術の説明である。この問題も、生化学に関する基本的な知識さえあればむしろやさしい方に属する。ここではほとんどの解答が、acetate/mevalonateを「酢酸/メバロン酸」としていた。acetate/mevalonateはacetic acidとmevalonic acidのエステル(塩の可能性もあるが、ここは常識でエステルと読み取らないといけない)であることを示しているが、日本語の「酢酸/メバロン酸」は遊離酸を意味する語である。従って「アセタート/メバロナート」とするか「酢酸エステル/メバロン酸エステル」とすべきである。一方で問題1のplatinumを「プラチナ」とした解答があったが、「白金」とすべきである。元素記号や化学名は日本化学会などでオーソライズされた標準表記に従うべきである。安易なカタカナ語翻訳は意味不明の場合がしばしばある。
問題3は粒度分布に関する出題である。ここではbimodalという語の意味を理解が最も重要である。「二峰性」という日本語があるが、粒度分布や分子量分布曲線にピークが2つあるという意味で使用されている。これが理解できれば、その後で出てくるmodeが「峰」、「山」あるいは「ピーク」を表していることは簡単に理解できるはずである。現在は、こういう語を「バイモーダル」や「モード」とカタカナ表記で済ませる安易な翻訳が横行しているが、これを読んだ当業者はすぐには理解できないだろう。特許翻訳に限らず、技術翻訳は読み手にその技術内容を正しく理解できるように工夫をするというサービス精神がないと、読者に伝わる翻訳にはなり得ない。
なお、特許翻訳にとって最も重要なのは論理性である。全体の論理がしっかりした翻訳でないと当業者の厳しい目に耐えることはできない。解答の中に論理性が全く考慮されていないで、ただ言葉だけが並べられたものがあったのは非常に残念なことである。自分の書いた文がどういう意味を持っているかをもう一度読み直すなどの工夫が望まれる。


問題(化学)PDF形式153KB   標準解答(化学)PDF形式84KB



2級

第7回NIPTA翻訳検定 2級 講評

知的財産翻訳検定試験の「2級」は、特許明細書翻訳に必要な基礎的な知識が備わっているかどうか、翻訳に必要な語学力が備わっているかどうか、を評定するために設けられたものです。技術内容としては、受験者の得意分野・不得意分野による偏りがでないように、どなたにもわかりやすい(比較的専門性の低い)題材が選ばれています。

問1については、"an integral heating element that is disposed in and throughout the frame"が適切に訳されていない解答がいくつか見られました。特に、"integral"(一体ものの)を、「完成した」としたり、"throughout"(全体に亘って)を「至る所に」とするなど、の例が目につきました。"prescription"は、医学的な処方の意味ですが、眼鏡の場合、検眼の結果作られた「度付き眼鏡」のような意味合いとなります。

問2については、”Therefore, it has been accepted by those skilled in the art that the use of aluminum in a reaction with water to generate hydrogen gas requires that the protective oxide layer is efficiently and continuously removed, and that the reaction is kept at an elevated temperature. ”において、"those skilled in the art "(当業者)が、「高い技術」などと訳されていたり、"it has been accepted that….and that…"の構文がおさえられていない訳がいくつかありました。
”A number of hydrogen generators have been developed in the past.”における"A number of"は、「幾多の」とか「多数の」という意味です。「水素発生装置の数が増大してきている」というような誤訳がいくつか見られました。また、"These documents disclose several compositions for generating hydrogen."における"compositions"を、「構造」とか「構成」とした解答訳がかなりありました。直前に装置についての記載があることに誘導された結果だと思われますが、後続の記載から判断すれば、「組成物」などの意味であることがあきらかです。
問3に関しては、"This input signal is full wave rectified by rectifier 150 and filtered to provide a DC signal to the switcher 151 and the low voltage power supply 153. "について、殆どの解答において、「この入力信号は整流器150によって整流された全波であり」と訳されていました。正しくは「この入力信号は整流器150によって全波整流され」です。原文が"full-wave rectified"となっていればこのような誤訳は少なかっただろうと思います。後続の文章から、交流を全波整流して直流とする趣旨が明らかです。

以上

問題(2級)PDF形式73KB  標準解答(2級)PDF形式41KB





3級

第7回NIPTA翻訳検定 3級 講評

下記の解答と解説をご参照ください。

問題(3級)PDF形式320KB  解答と解説(3級)PDF形式140KB

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